先日、澤田伸大・鈴木和宏がStrongFirst(以下SF)のケトルベルインストラクターの資格を取得いたしました。
SFは世界的に権威のあるトレーニング団体で、米軍特殊部隊やプロアスリート、オリンピック選手にもそのメソッドが導入されています。
しかし、日本においては、まだ認知度が低いのが現状です。
そこで今回、皆さんにケトルベルとSFについてより深く知ってもらうべく、ケトルベルインストラクターとして10年以上ご活躍されている、おの整骨院、院長の小野卓弥先生にお話を伺いました。
小野先生、よろしくお願いします。まずは経歴と自己紹介をお願いいたします。
よろしくお願いします、小野卓弥です。
現在55歳で、アスリートでいうと柔道家の吉田秀彦選手と同い年になります。
元々はサッカー少年だったのですが、プロレスラーに憧れたことがきっかけで、高校から柔道を始めました。運動神経が良いほうではなかったのですが、柔道ではそれなりに結果が出たこともあり、卒業後は法務省の刑務官として働いていました。機動警備隊に所属していたこともあります。
そこからは医療の道を志すために一度退職し、29歳の時に柔道整復師の国家資格を取得しました。専門は骨折・捻挫・脱臼などの外傷で、現在は独立して21年目になります。
JOC(日本オリンピック委員会)管轄のスポーツ競技会の医務としても、これまで30回以上活動しています。
その中で、ケトルベルに携わるきっかけとなったのは、自身のオーバートレーニングによる身体の故障です。元々はフルスクワットで240キロを上げるほど追い込んだトレーニングをしていたのですが、ある日教科書に載るような肩の大怪我を負ってしまいました。
一時期は柔道で国体の強化選手を経験したりもしましたが、そこからは肩の脱臼を繰り返す状態となってしまいました。これまで30回以上、完全脱臼をしてしまったと思います。
そこからは、自分の現役生活はもう無いものだと思い、新しいトレーニングの発掘に興味を持っていました。。そしてそこで、偶然ケトルベルと出会いました。
最初は、もう身体が壊れてしまってもいいという気持ちで取り組んでいましたが、逆にどんどん調子が良くなっていきました。
その後も継続して取り組みを続け、2014年に初めてインストラクター資格試験に合格し、6度更新して現在に至ります。
ありがとうございます。ではまずは改めて、ケトルベルとは何か教えていただけますか。
具体的に、何が鍛えられるトレーニング器具なのでしょうか。
ケトルベルとは、鉄の球体にハンドルを付けたもので、ロシアが発祥です。
旧ソ連崩壊後アメリカに渡った、後のSF創始者パベル・サッソーリンによって世界中に広められました。
ケトルベルは、ボディビルトレーニングのような、特定の筋肉を大きくするために用いる道具ではありません。
全身を使い、「力を発揮する練習」をするためのものです。
SFではケトルベルを振り上げた瞬間、全身を固めて、テンションを作ります。
つまり、これは1回の力の出力を上げるテクニックを習得するということなんです。
とは言え歯を食いしばって全力でやるものではなく、コントロールしながら60〜80%の高い出力をキープするなど、まさにブラジリアン柔術の競技に直結する効果が得られると思います。
これにより、心肺機能を上げ、骨を強くするという効果もあります。
一般的なウェイトトレーニングと違うのは、ケトルベルは振ったとき、一瞬浮遊している時間があるという事です。そのため、実は関節の負担も少ないというメリットもあるんですよ。
筋肥大が主な目的ではないんですね。お話を聞くと、階級別競技との親和性がとても高いように思えます。
また、高い出力をキープするという点も、試合時間が長いブラジリアン柔術と非常に良くマッチしていますね。
ケトルベルと言っても、様々な種目があると思います。
これから本格的にケトルベルを始める人は、まず何に取り組むべきでしょうか。
やはり両手でケトルベルを振るツーアームスイングです。
両手で加速をつけることにより、扱い方によってはケトルベルの重量の10倍のパワーを引き出すことが出来るという研究結果もあるんです。
つまり、24キロのケトルベルであれば、理論上240キロの出力を出すことも可能です。身体がその出力を覚えることで、様々な動作やトレーニングが楽になります。
スイングであればわずかな場所があれば出来ますし、覚えるのにもそんなに時間がかからない。短時間で心拍数も上げられるし、頭上に上げないので、怪我のリスクも少ないです。
とにかく、タイパ・コスパが良いです。もし1種目だけ選べと言われれば、このツーアームスイング。これだけやればいいと言ってしまっても良いでしょう。
場所を取らないので自宅に置くこともできますし、時間がない人でもスイングだけであれば取り組むことが出来そうですね。
ただ、独学で取り組んで怪我をしたという声もよく聞きます。
初心者が陥りやすいミスとして、スクワットのような動作で上下に振ってしまうというパターンが多いと思うのですが、それにはどのような危険がありますか。
スクワットのフォームでスイングをすると、多くの場合、膝が前に出すぎてしまい、また腰も反ってしまうため、それらの関節を痛めやすいです。肩にも負担がかかりますね。
更に言うと、腕と脚の力でケトルベルを持ち上げるようなフォームになるので、加速が出来ず、効果は弱まってしまうでしょう。
やはり正しいフォームで行うことが大事ですね。その他に、何か気をつけるべきことはありますか。
少し細かくなってしまうんですが、呼吸やセット間の身体のほぐし方も、ぜひ皆さんに知ってほしいです。
SFでは、これらをとても大切にしています。
例えば、呼吸を正しく行わないと、口が乾いてしまい、それだけでパフォーマンスが低下してしまいます。
また、身体のほぐし方を学べば、柔術のインターバル中のリカバリーにも、それを応用することが出来ると思います。
SFのトレーニング団体としての知見の深さが伺えます。
小野先生は、ご自身の整骨院でリハビリとしてもケトルベルを活用しているとお聞きしました。
怪我予防にも効果があるのでしょうか。
はい、ケトルベルトレーニングには、身体をリセットするという働きもあります。
例えばスイングを行う際、身体をしっかりと伸ばし、肩がすくみ上がらないように意識するなど、常に各部位が正しいポジションに位置するよう動作を繰り返します。
それにより、身体をニュートラルな状態に近付ける事が出来るのです。
多くのトップアスリートは、高いパフォーマンスを発揮するために、身体がその競技に特化した形に変化しています。
もちろん、それを正すことが競技にとって必ずしも良いとは言いきれませんが、その状態がずっと続くと、身体はいつか必ず壊れてしまいます。
柔術はとにかく身体を丸める動きが多いので、普段のデスクワークと相まって、腰痛を引き起こしてしまう人が多いです。
競技を長く続けるために、日々身体をニュートラルに戻すことはとても大事ですね。
回数やセット数はどのくらい行うのが適切ですか。
回数については、1セットにつき3〜5回ですね。私はめったに10回以上やりません。
なぜならば、フォームが正確ではなくなってしまうからです。
それを3〜5セット行うのが良いと思います。
まずは、とにかく正確なフォームで行うことを意識してください。
それが出来るようになったら、次にインターバルを短くする。
そのあとは、好きに回数とセットを増やしていったらいいと思います。
この記事を読んで、ケトルベルのイメージが変わる人も多いと思います。
日本でもこの素晴らしいトレーニングが広がると良いですね。
海外ではSFはメジャーな団体として広く認知されているのでしょうか。
はい。各国のオリンピック委員会には、SF関係者が多く居ます。
大学等などの研究機関と、トレーニングに関する共同研究を行っているのがSFの強みですね。
有名な所で言うと、10th Planet Jiu-JitsuはSFから直接ワークショップを受けており、トップインストラクターはインストラクター資格も取得しています。
また、総合格闘技の最高峰であるUFCとも関わりがあります。
多くのアスリートが取り入れているんですね。
柔術界でいうと、韓国は特に近年、ハイレベルな選手が多いですが、ケトルベルトレーニングも盛んなイメージです。
小野先生、本日は貴重なお話を沢山お聞きすることが出来ました。ありがとうございました。
こちらこそ、本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
皆さんにはぜひ、目的と方法論が逆にならないよう、がむしゃらに追い込むのではなく、正しくトレーニングを行っていただきたいです。あくまで競技が主目的で、それを強化するためのトレーニングですから。
これは私の若い頃の反省でもあります。
特にこれから続く方には、自分と同じ間違いをさせてはいけないな、と思いますね。
おの整骨院
院長: 小野 卓弥
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